さよならは、

寂しいと思った。それが少し笑えた、んだ。何も無い部屋とか、カーテンが風に揺れたとか、家具の置いてあった床の鮮やかさとか、目の中に広がるいっぱいの夕日、とか。そんなもの全然、私を寂しくさせなかった。だけどそれでさえ。私の部屋から無くなったもの達でさえ、私が皆の中から、あの落ち着く教室の中から消えることを照明しているようで怖かった。そして悠一郎と笑いあえなくなることが、寂しくなった。それも、凄く突然に。まったく、変な感情だ。どうしたらこんな風にできてしまったモヤモヤを壊せるんだろうか。どうしたらいいか二進も三進も行かなくなって、思ったことは、ただ会いたい、何処でもいい、どんなに変わってしまった姿でもいい、から、会いたいよ。おかしいね、生まれた病院も一緒で、幼稚園、小学校、中学校、高校。全部一緒に過ごしてきて、休みの日でさえお互いの家を行き来したり、野球部で熱くなったり。会わなかった日なんて今まで無かったのに。今、会いたい。こんなにも、涙が出るほど悲しい日が来るなんて知らなかった。明日から今までの日々が壊されるんだ、と思うと苦しくて、悠一郎と会わない日が来るなんて信じられなくて、もしかして「オハヨー」なんて言いながら窓から顔を出してくれるんじゃないかと、思ってしまう。そんな事無いのに。新しい家、新しい部屋に行ったらそんな事無いんだ。目の前いっぱいに広がるオレンジ色が滲んだ気がした。ドアの後ろのほうから「 ――、もう行くわよ―――!」なんて声が聞こえた。そっか、もう、もう終わりなんだ。終わりなんて、終わりなんて来なければいいと思ったのに。「 」ドアの向こう側に声が聞こえた気がして、思わずドアを開けた。「ゆう、いちろっ」目の中に映ったその人の名を呼ぶ。頬に冷たい水がつたった。唇の上を伝ったそれは塩辛くて、涙、だ。と自覚した。「もう行くの?」「うん。」「寂しいな、会えないんだろ」「そうかも。でも、たまに会いに来るよ」「じゃあ!俺も、行く! に会いに行く、ゲンミツに!」”ありがとう”言いかけた言葉を飲み込んだ。そのかわりに、悠一郎の頭をガシガシ撫でた。「いてっいて!」って言いながら本当は痛くないよって顔をしてる。悠一郎のことなら何でも分かるよ。ワザと私のためにやってくれてると思うと自然に笑いが出てくる。笑わせようとしてくれてるんでしょ?頭から手を離そうとして腕を握られた。悠一郎の手は冷たくてカタカタと震えている。悠一郎らしくない、よ。悠一郎の手は、今まで触れた彼の手はいつも暖かくて柔らかかった。「悠一郎」「俺さ、 のこと、好きだから」握られた手に少し力が入った。玄関から私を促す声が聞こえる。「私は、」好きだ、けれど。悲しいから。「ごめん、行かなきゃ」何も言わずに悠一郎の手を振り切るように玄関に向かう。「悠一郎」自分でも分かるほどに声が震えた。どうしてココまで緊張してるんだろう。「私も、好きだったよ」ばいばい。心の中で呟いたさようならが悠一郎に届けばいい、ああ、こんなにも苦しくて悲しい日が来るなんて。

美しい

070828        続きます