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★ ★ ★ ☆ ★ ★ ★ ☆ ★ まだ少し明るい空。今の時間から30分もしないうちにきっと空は暗くなるんだろう。後ろからは微かに川のせせらぎが聞こえ、少し離れた所に赤提灯の光が見えた。ざわついた祭りの声が実際の距離以上に遠くに聞こえる。 手の中には割り箸があり、その割り箸には赤い林檎飴がついていた。まだ一口も手をつけていないそれの表面は少し溶けているようにも見えた。 時刻は6時50分。花火が始まるまであと10分程度だ。おまけに言っておくと、悠一郎との約束の時間まであと2時間と10分だ。早く来すぎてしまったのだ。まあそれだけ楽しみにしてたというか、遅れちゃいけないと思ったというか・・・。 悠一郎とはまあ、俗に言うカップルと言う関係で、デートだってたまーにしてる。(野球部で忙しいから、寂しいけど)今回だって9時過ぎまでやっている花火、と言うことで無理をして頼み込んだのだ。 だから楽しみにしていないわけがない。あ、でも2時間前って早すぎか(笑)時計は7時を指していた。暗くなった空に突然光が上がったのに少し驚いて顔を上げた。空には菊の花のように広がる色とりどりの光が視界いっぱいに広がった。 その光に遅れて驚くように大きな音が耳を突いた。 ★ ★ ★ ☆ ★ ★ ★ ☆ ★ 「たーまやーぁっ!!」 誰も居ない丘に響く私の声。見晴らしがいい丘なのに、ここから少し離れた丘のほうが人が集まる。 悠一郎との待ち合わせも、この丘は人の集まりが悪いからってことでここになった。悠一郎は部活が終わって直接ここに来るって言ってた。その時ニッコリ笑ったのが嬉しくて、間違えて覚えたゲンミツにって言う言葉も輝いて見えた。 きっと私のために急いで来てくれるんだろうなあ。 自然と顔が緩んだ。空に放たれた光は段々増えてきていて見た限りで3個ぐらい空に咲いている。 耳に響く心地の良い音。遠くの家や隣町にまで響くであろうこの音が、君の耳に届いているんだろうか? 林檎飴の甘ずっぱさが口いっぱいに広がり、果てしない闇に咲いた花弁達が私の瞳に鮮やかに写った。そして又遅れるように響いた音。この丘から悠一郎の耳に音が届くまで、いったい後何秒かかるんだろう? 計算なんて面倒くさいことしないけれど、何となく考えてみた。ここから学校まではそう遠くないけれど、なんとなく悠一郎との距離が遠く感じた。別に私の知らない彼が居るからとか、そんな実体のある思いじゃなくて、何となく心のどこかに居る冷たい感覚がそう思わせた。 そんな思いを埋める様に甘酸っぱい林檎飴を口に含んだ。 時間は8時。この1時間は随分と短い気がした。なんでだか不思議だけれど、悠一郎のことを考える時間はいつも短く感じる。私は幸せボケしてしまったようだ。ドォンと音をたてて上がった花火は赤く、手に持つ林檎飴の色みたいだ。 「――――っ!」 「?」 名前、を呼ばれた気がしたんだけど、気のせいかな。一応あたりを確認した。左を向いたとき、向うのほうから微かに人影が見えた。おか、しいのかな?まだ8時なのに、悠一郎の姿に見えるんだけど・・・。何度も目を擦ってみる。 何度擦ってもその人影は悠一郎で、見直せば見直すほど、姿ははっきりと、大きくなっていった。 「!」 「えっと、悠一郎?」 「なにいってんだよー。どっからどう見ても俺だろ」 「だって、今、8時だよ?」 「モモカンにさ「絶対早く行くから行って良い」って聞いたら「行ってきなさい!」だって。だから来た!」 監督のセリフだけ少し真似したように言ったところとか、その人を和ませる雰囲気とか全部ひっくるめて悠一郎だ。 私をわかってて、おまけに早く来てくれた、って言うのが凄いうれしい。目に薄く涙が溜まった。生唾を飲み込みそれをぐっと抑え、ニッコリ微笑んだ。 「あ、ありがと」戸惑いがちにそう言うと悠一郎は嬉しそうに笑って、呑気に「手繋ごうぜ」とか言ってきて、まあ、嬉しかったから勿論手を差し出した。繋がった手は少し乾いていたけれど、1分もしないうちに湿っぽくなった。 その湿っぽさに少しだけ安心した。(これはおかしい感情なのだろうか?) 「綺麗だな!」 「うん」 「、いつもごめんな」 「へっ?何が・・・?」 「なかなか2人で居られないだろー。」 「別にダイジョーブ!仕方ないしね。」 「でも、俺は寂しい。は、違うの?」 真剣な目で私を覗いてくる。私だって、我慢してるよ。でも、寂しいって言ったら悠一郎に気を使わせちゃうし、寂しくないといえば嘘になるし。瞬きした数だけ触れてほしい、空気を吸った数だけ好きだと言ってほしい。笑った数だけ私を思っていてほしい、太陽が昇ってても、月が空に浮かんでいても、空が曇っていても。私と一緒に居てほしい。 想う数だけ想う量だけ我侭は溢れ出る。だからこそ言えない。だけど、今寂しくないって言ったら、悠一郎は傷つくんだろうか。本当のことを言えば、心を繋げられるんだろうか。 「寂しい、よ」 握った手に力が入った。ぐっと身体が近くなる。悠一郎は3回瞬きをして顔を近づけてきた。ぎゅっと目を瞑ったと同時に身体全体に力が入った。ゆっくりと唇に暖かさが落ちてくる。ぬくもりが愛しかった。 悠一郎は少し汗臭くて、熱い外気に触れているからその汗は一向に下がりそうにない。その汗の臭いの中から心の落ち着く匂いがした。 ★ ★ ★ ☆ ★ ★ ★ ☆ ★ 「せーの!だかんなっ」 「ばっちこい!」 「それちょっとちがくね?」 「気にしない!あ、来る来る!」 「「せぇーーーのっ」」 「「たーまやぁああっ!!」」 最後の1つの花火が上がった。その花火は空に大きく広がった後儚く弱く散っていった。それがまるでさっきまでの私の冷たい気持ちみたいで、じゃあそれを受け止める地面が悠一郎なのかな、と想ってみた。 2人で張り上げた声は花火と一緒に遠くに響いて無くなっていった。繋いだ手は熱くなっていたし、汗でヌルっとしたけど、悠一郎の汗だったら嫌な気がしない(何でだろうね。不思議) 「帰ろっか?」 「コンビニ寄って行こうぜ!」 「悠一郎今日からお盆だけど部活あるの?」 「んー明日は無いと思う。あーあ野球してー」 「そっか、じゃあさ、」 「何何!?」 「ウチ、来る?」 「いいの?!やったぁ!」 |