「じゃあな」





泣かない。

だってそう決めたから、あんたの為になんか泣くもんか。ってね。













愛してる、好きだ、って言ってきたのはいつも君。それなりにあたしも答えてきたつもりだった。だからまさか、

そんな言葉が君の口から出るとは思わなかった、んだ。少し自意識過剰になりすぎてたのかもしれない。

きっといつだって君はあたしを想っててくれるんだって。信じすぎるのも悪いものね。





始まりは君から、終わりも君から。

ねえ、修悟。信じがたいかもしれないけど、あたしは、修吾の事好きだったからね。





あたしと修悟は中学の時、あたしがまだ三星に居た時に付き合ってた。といか、さっきまで付き合ってた。

付き合い始めの2ヶ月間は物凄い幸せで、一緒に帰ったりとか、お弁当食べたりとか、他愛のないことが凄く大切だった。

まあ、今となっては純粋なる思い出だね。うん。

三星は、高等部まであるけど、あたしは高等部入ってすぐに親の事情と言うことで、西浦に転校した。

それがあろうことか都合よく三橋君が居て、物凄い吃驚したのが今でも印象的だ。

それからあんまり修悟と上手くいかなくなって、千代ちゃんと一緒にマネジやってたら、修悟と連絡取るの忘れちゃって、で今の有様か。





ダサすぎて泣けてくる。

いや、修悟から別れるなんて言うと思わなかった。しかも妙に素気ない態度だったし。もう飽きちゃいましたか?

そうだよね、倦怠期だもんね。畜生コノヤロー修悟のバッキャヤロー。





コンビニで買った肉まんを頬張る。

ブランコに乗って足を折ったり伸ばしたりして少しだけ揺らしながら、そこにいない修悟へ悪態をつくなんて、

傍から見れば、流石失恋女って感じだろう。絶対そうだね。

特に気温が寒いわけじゃない、だけどこの公園にはあたし以外誰も居なくて、それが少し安心した。

ただそこに、ぽっかり開いた隙間を埋めるものがないのも確かで、そう思ったら少しだけ目の水分が30%くらい上がった。

空は少し雲が分厚くて今にも雨が降ってきそうな、って雨降ってきたよ。

傘持ってないな。肉まん冷めちゃう。とか思いながら、でも行動に移す元気もない。そんなあたしを誰か助けて。





もうブランコからどう降りればいいかも忘れてしまったよ。





?」





突然視界の隅から顔を出したのは阿部だった。

いつものごとくムカつく顔をしてやがる。こんの垂れ目め。何となくムカつくんだよこの子の顔。

いや、美男子なのは認める。認めるけどさあ。





「あ、阿部じゃん」

「何してんだよ、風引くぞ」

「あー、うん。良いの」





さり気無く優しいのはこいつの良いトコだよな。

阿部は折りたたみ傘らしい小さな傘で、体が少しはみ出して濡れているにもかかわらず、

あたしの傍により傘を傾けてあたしが濡れないようにした。もう、とっくに濡れてるのにな。





「もう濡れてるからあんまり意味無いよ阿部」

「別にいいだろ」

「なんか阿部らしい優しさだね。阿部よ」

「訳わかんねえよお前は」





阿部は少しはにかんだ見たいに笑った。

それがまた、阿部らしくない笑い方。今まで見たことない、笑顔。

傷心なあたしには堪えるね、キュンてなるから。止めよう?





「それより阿部の服濡れる。」

「構わねえよ。つかお前何してたんだよ」

「んー。彼氏に会ってた。けど振られちまったよ。」

「お前彼氏いたのかよ。すげえ以外」

「シッツレーなっあたしにだって彼氏ぐらい居ましたー」

「居ました、な。」

「何この子。ムカつくんですけど」





急に黙った阿部。

何?何が言いたい?





「・・・誰だよ。そいつ」

「何で、よ」

「お前が、泣いてるから。」





は?泣いてる?あたし、が?泣いてるわけないじゃない。これは雨、だよ。

髪の毛から、水が流れて、涙みたいに見えるだけ。決してあんなヤツのためになんか泣かない。



気が付くと阿部はそっと手を近づけてきて、あたしの頬を優しく拭った。

ゴツゴツした間接と、潰れた豆がやけにリアルで、前修悟と繋いだ手を思い出した。

初めて苦しいと思った。修悟を想ってたことを思い出すと、凄い、苦しい。





「阿部えっ」





阿部の服をギュっと握り締めて、胸の中に顔を埋めた。そこは予想以上に広くて熱くて、

おまけにゴツゴツもしてた。あたしは修悟の胸の中を知らない。

今まで男の子の前で泣いた事なんて滅多になかったし、こんな風にしてもらうのは初めて。

あたしは今修悟じゃない、紛れもなく阿部に調子を狂わされてる。



胸の中で体を震わすあたしに、阿部は弱い力で頭を撫でた。

顔を上げると阿部の顔が近くて、その綺麗な顔つきに少しだけときめいてしまったなんて。



優しく、キスが落とされた。

顔がやけに真面目だったから、もしかして、とか思ったけど本当にキスされるとは。いやはや。

あたしの唇をついばむみたいに、甘咬みしてくる、優しいキス。

阿部、あたし。





「送る」





それが離れて、少し間が開いた時、唐突に阿部が言った。

いつも通りの無表情で何もなかったように言うから、調子狂ってたこっちが損したみたいじゃんか。

でも、何気に阿部が愛しい、なんて調子のいいこと思ってしまうあたしは、修悟をそんなに引きずってないのかもしれない。





「ねえ、阿部」

「何?」

「もう一回、」





少し戸惑いながら、繰り返されたキスは短くて、小さな音を立てて離れた唇をあたしは愛しく思った。

阿部を見ればパッチリ目が合って、何となくドキっとしたから、目を少し逸らした。

その時、修悟の顔を思い出しても、全然苦しくないことに気が付いた。





阿部くん阿部くん。どうやら失恋したての女の子は君に落ちましたよ。









まだ降ってはいた、けど。





















黒色の雨












なんとなく、止んだ気がしたんだ。

阿部、君のおかげさ。























07.07.21 365!企画さまへ。あんまり喜怒哀楽になってない・・・ようなきがしますが、とても楽しかったです!また参加したいです。