栄口くんは、とっても裁縫が得意だ。何故?と聞かれると、是非彼の口から聞いてほしいものだと思う。
 まあそんな栄口くんだって私に頼ってくることがあるのだ。何故か、だけどね。


「あ」
 外から体育をしているクラスの声が聞こえてきた。今は多分1組2組3組の時間だと思う。だから栄口くんも、あの中にいるんだろう。多分。の視線は隣の席の三橋くんを通り越して窓の外へと向いた。
 朝と昼の間の日差しは眩しすぎず、優しく世界を包み込んでいる。まだ抜け切れない朝の匂いは心地よく鼻をつき、秋風は開いた窓から教室へと吹き込んでくる。その風がの前髪をふわりと揺らした。

 授業も残り5分となった。
 黒板に描かれる理解不能の言葉を目で追うのに疲れたは、まだ綺麗な机に落書きをし始めた。
 何を書けばいいか迷っていると、視界の端に三橋くんが入った。そうだ。西浦野球部でも描こうかな、などと思いながら、まずは三橋くんを書き出した。うん、なかなか良い出来。次には田島くん、泉くん、阿部くん、花井くん、水谷くんに千代ちゃん。沖くん、巣山くんに西広くん。それで最後に栄口くん。
 栄口くんを書き終えると、達成感と羞恥心が入り混じった、不思議な気持ちになった。なんだろうか、この気持ち。
 チャイムが校内に響き渡った。授業終了だ。…、今日も彼は私のところへ来るだろうか。自分で出来るはずなのに、私にボタンをつけてと言いに来るだろうか。
 机の中から小さなソーイングセットを出した。  本当は知ってる。栄口くんが私にボタンをつけてと言いに来る訳を。そんな私はズルイのだろうか。








秋風と恋心
」早くそう呼んで。早く来て。











071102 まだ未UP状態ですが完成。名前がちょっとしか出てこない件についてどうしてくれようか(お前な…)